
こんにちは、Dancing Shigekoです!
今回は小説『赤と青のエスキース』を紹介します!
[基本情報]
著者:青山美智子
出版社:PHP研究所
出版年:2021年
ページ数:239ページ
[登場人物]
レイ
一年間メルボルンに留学する学生。
ブー
メルボルン育ちの日本人。バーベキューでレイと知り合う。
ジャック・ジャクソン
メルボルンに住む画家。ブーに頼まれ、レイの絵を描く。
空知
額縁製作する工房で働く。ジャックの絵に惚れ込んでいる。
[内容]
レイは一年間メルボルンに留学に行った。自分の殻から抜け出したくてバイト先の先輩に誘われてバーベキューに参加する。そこで知り合ったブー。
彼と一年間の期間限定の恋愛が始まる。
そしてレイの帰国が近づいてきた頃、ジャック・ジャクソンに絵を描いてもらうことになる。時間の都合で下絵(エスキース)までにすると言う。
この絵が三人の運命を大きく動かして行くのだった…
[感想]
タイトルの通り赤と青のエスキースが中心に存在する作品。
・期間限定の恋
奥手のレイ。このままの生活では、何も変わらず日本に帰ることになるかも、という焦りから、友達を作ろうと考えるレイ。そこに転がり込んできたバーベキューの話。参加してみたものの、相変わらず人付き合いが深まらずにいる。
そこで誰ともフレンドリーに接するブーと出会う。何かあったらいつでも連絡ちょうだい、と連絡先を伝えてバーベキューが解散になる。
どうしてもビクトリア国立美術館に行きたいと思ったレイが、覚悟を決めてブーと連絡をする。そして二人は徐々に良好な関係になっていく。ブーは期間限定の付き合いだね、と距離を保っている。
1年間と分かっている人間関係。そんな簡単に割り切れるものだろうか。この二人、果たしてそこまでの関係なのだろうか。その辺りの行方が気になる第一章。
・額縁職人の熱意
二人のその後が描かれるのかと思っていると、話は額縁工房に舞台を移す。登場するのも額縁職人とその見習いの空知。空知はメルボルンに行った時に見たジャック・ジャクソンの絵に惚れ込んで、額縁職人になろうと心に決めた男。どうやら、ジャック・ジャクソンとその絵が中心の作品なのだろう、と思いは動く。
そんな全体像をイメージしながら、この二章では、空知の額縁に対する思いを楽しむ。絵画が引き立ち、それでいて額縁が目立ちすぎないようにする。そんな思いで額縁を作っている様子がとても印象的。自分の知らない職種の、自分の知らない情熱に触れる。その情熱と迷い、思いを額縁に注いでいく描写は、実に熱い思いが伝わってくるものだった。
・漫画家の思い
では、三章ではどんな繋がりが出てくるのか、と思っているとジャック・ジャックソンの絵が空知の作った額縁に入って飾られている喫茶店で、漫画家のインタビュー。絵が二人の漫画家の間に静かに飾られている。目立ちすぎず、それでいて場を引き立てている。そんな存在感の絵を挟んで、マンガ大賞を受賞した若手漫画家と、ベテラン漫画家のインタビュー。ベテラン漫画家はその若手漫画家をアシスタントとして雇っていたことがあり、その頃にいろんな勉強をして、今に至る。
その二人の関係が面白い。プライドと焦りで、いつも勝ち気な発言をしているベテラン。その裏にある焦り。後輩があっさり自分を抜いていく。見下されていると感じる劣等感。ところが、若手漫画家は、彼の教えに感謝している。その思いを最後に伝える流れ。
漫画家という競争の激しそうな世界。そこに住む二人のすれ違いが静かに解消されていく様子は、心にじわーっと滲み込んでいく感じだった。
・パニック障害に陥る
そして四章では、小物店で働く女性の話。イギリスへの買い出しを任されて、ついに自分が認められた、と喜んでいた矢先、パニック障害で職場を離れることになってしまう。という展開。どうやってパニック障害を解決するのか、がポイントなのか。元恋人との関係が描かれていくのか。これまでは絵が比較的大きな存在だったものの、この章では控えめ。
閉経を迎えた女性の心理を描きながら、元恋人と真っ白な猫との絶妙な関係。節分に思いっきり豆まきをして、過去から解き放たれていく、といった展開。
50歳を過ぎたこの女性に、最後に男性が声をかける。その一言に注目。
・個々のエピソードは絵が関係
四つの章から成る本作品。
一章で絵を描く場面に触れ、その絵(エスキースとタイトルがついている)が二章では額縁職人の元に預けられる。三章では額縁に入ったエスキースの前で漫画家が二人、インタビューに答える。
最後の四章では、その時の記事を大切に持っている描写が出てくる。
一章から四章までで30年近くの年月が経っている。絵は百年変わらず世の中に残り続ける、と言った表現があり、時間が経ってもエスキースが変わらず、世界に存在していると言う描写をしたかったのかな?
そんな風に絵が中心の展開だった。と思っていただけに四章の最後の一言で、すべてを覆すのだからすごい。
すべての話はジャック・ジャクソンによって語られるエピローグでつながりを見せる。最後の一行まで見逃せない作品だった。
読了日:2022年7月12日
皆様の感想もぜひお聞かせください!
それでは、また次回!
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