
こんにちは、Dancing Shigekoです!
二日間で読み切ってみた。
今回は小説『乙女の密告』を紹介します!
[基本情報]
著者:赤染晶子
出版社:新潮文庫
出版年:平成25年
ページ数:102ページ
[登場人物]
みか子
京都外大の学生。2年生。ドイツ語て『アンネの日記』のスピーチコンテストに出るゼミを受けている。本作品の中心人物。
周りから噂されて、その噂に押しつぶされそうになっていく様子が痛々しい。
貴代
京都外大2年生。みか子の友人。麗子様の失墜で「黒ばら組」のリーダーになる。ドイツからの帰国子女。
中立的な存在。どこかもがいている感じがある。
麗子様
京都外大4年生。スピーチコンテストを常にトップで終わる。スピーチが命と感じさせる存在。「黒ばら組」のリーダーだったが乙女たちの噂で交代。
麗子と名の女性はみんなイメージが重なる。お嬢様でいて女王様と言うイメージがある。この作品の麗子様も高いところに存在している印象が強い。
百合子様
京都外大4年生。「すみれ組」のリーダー。おほはほほと笑うのが特徴。
あまり登場回数は多くなく、印象は薄い。
バッハマン教授
京都外大ドイツ語スピーチのゼミの教授。いつもアンゲリカ人形を持っている。
名前のせいか、バッハのような出立をイメージ。
[内容]
みか子らがドイツ現代事情の授業を受けているとバッハマン教授が乱入してきて、スピーチの課題を伝える。『ヘト アハテルハイス(アンネの日記)』の1944年4月9日の日曜日の夜をスピーチの課題にする。
それ以来、学生たちはバッハマン教授の授業に備えて必死で暗唱できるように取り組んでいた。みか子はいつも同じ場所で忘れていた。
麗子様と朝練を繰り返すがいつも同じところで忘れる。そんな練習を続けている中、麗子様に噂が立ち始める。その噂を確かめたくて、みか子は行動を起こしてしまう。その結果、みか子にも噂が囁かれるようになっていくのだった…
[感想]
京都外大に通う女子生徒(乙女たち)を『アンネの日記』を通じて描く作品。
<『アンネの日記』がもたらしたもの>
・スピーチの暗唱を通じて見つける自分の言葉
みか子や貴代、麗子様は『アンネの日記』の暗唱をすることがゼミの課題。それをひたすら練習する様子が描写される。その描写と並行して、外大に通う乙女たちの心境が描写される。乙女であり続けるために、よからぬ噂が立ったら、その噂に便乗して仲間はずれにならないようにする。
途中、麗子様がバッハマン教授と関係を持っているという噂が広がり、みな少しずつ麗子様の行う朝練に参加しなくなっていく。みか子は麗子様の完璧なスピーチに憧れていて、その噂を信じることができずにいた。
そしてどうしてもその噂の真相を知りたくてバッハマン教授の部屋を覗きに行ってしまう。結果、知ってはいけない事実を知った上に、教授室にいたことを別の生徒に見られてしまい、今度はみか子が噂の的になってしまう。
誰が密告したのか、その犯人を特定しようとする行為は、まるでアンネ・フランクを密告した当時の様子と重ねている感じ。ユダヤ人であることがナチスにバレて、連れていかれる。のと同じくらい、噂が立つことで乙女でなくなることに恐怖を感じているみか子。程度の差はあれど、何かに怯えて過ごしている様子が、アンネの恐怖と重なって感じられた。
みか子のスピーチの様子を描いているだけであるのに、みか子の心理的な追い詰められ方がアンネの気持ちを代弁しているように感じられる作品。
・自分の言葉を探している
アンネの心境を代弁しているのと同時に、もう一つ印象的な内容があった。それは、乙女たちはスピーチに挑む。演壇に立って、暗唱する。ところが決まって忘れてしまうフレーズがある。
その忘れてしまう言葉が、麗子様曰く、自分が求めている言葉なのだという。その麗子様は常に完璧にスピーチができてしまい、自分の言葉を見つけられずにいた。
ところが最後の最後でその言葉を見つけて、スピーチを止める。そして彼女は姿を消してしまう。
スピーチを通じて自分の言葉を探す。自分の言葉は忘れる部分だという考え方が興味深い。奇妙な響きだけれど、わかるように感じた。
<アンネ・フランクの生涯を想像>
・本作品の主人公は京都外大に通う女子大生(乙女)たち。彼女たちの『アンネの日記』を暗誦しようとする努力を通じて、アンネ・フランクの存在が大きくなっていく展開。アンネ・フランという名前だけの存在だった彼女が、いかに苦しんでいたか、ユダヤ人であることがどれだけ彼女を苦しめていたのかを感じる。
そして『アンネの日記』も読んでみようと思うきっかけになる作品だった。
・バッハマン教授とアンゲリカ人形
バッハマン教授はいつもアンゲリカ人形を持っているという。一刻堂が持っているような人形の女の子版のイメージがある。三つ編みを二つに下げている赤髪のそばかすの人形。勝手にそんなイメージを持ってしまう。
そのアンゲリカ人形にいつも話しかけている。夜はモーツァルトを聴かせているという。そのアンゲリカ人形がいなくなってしまい、バッハマン教授は気落ちしてしまう、という展開が待っている。
アンネの暗い過去とは別路線で、不思議ワールドが広がる瞬間だった。
<以前の職場近くにあった京都外大が舞台>
・京都外大の講義室
以前の職場がまさに京都外大があるところの近所だった。知っている場所が舞台になると言うのは実に親近感が湧くもの。
知っている場所ではあったものの、詳しい描写少なく、講義室の中でスピーチの練習をしている様子が中心だと、あまり身近感がなくなっていく。
そしてみか子の家あたりの街並みがどんな感じなのか、あのあたりのようなイメージだろうかと想像を膨らむ。
とは言え、やはり知っている場所が舞台と言うのは、それだけで他の作品よりも身近と感じる。あの場所の女子大生たちはこう言う精神的な葛藤を繰り広げているのかもしれないというイメージが湧き、次その辺りで女子大生を見かけた時には、「あっ、乙女」と思うようになってしまいそう。そんな身近感のある舞台だった。
女子大生が抱えている漠然とした不安を描いているように感じる作品だった。
読了日:2022年10月4日
皆様の感想もぜひお聞かせください!
それでは、また次回!
Comments