小説『ダイイング・アイ』交通事故から始まった秘密
- Dancing Shigeko
- 2021年12月25日
- 読了時間: 5分
更新日:2023年9月22日

こんにちは、Dancing Shigekoです!
冬至を過ぎて、気持ち朝が明るくなるのが早くなったように感じる。少しずつ日の長さが延びていくと思うと嬉しい。
さて、今回は小説『ダイイング・アイ』を紹介します!
[基本情報]
著者:東野圭吾
出版社:光文社文庫
ページ数:408ページ
[登場人物]
雨村慎介
バー『茗荷』で働くバーテンダー。以前はバー『シリウス』で働いていた。
岡部義幸
『シリウス』で働くバーテンダー。
江島
『シリウス』のオーナー。
木内
帝都建設で働く会社員。
村上成美
雨村の恋人。成美の部屋で同棲している。
千都子
『茗荷』のママ。
瑠璃子
『茗荷』に現れた女性客。一人で来ることから千都子が気にする。
岸中美菜絵
ピアノの先生。教え子の家から帰る途中に交通事故に遭い、死亡する。
岸中玲二
岸中美菜絵の兄。マネキンメーカーで働く。
小塚
西麻布署の警部補。
[内容]
雨村慎介の働くバー『茗荷』に閉店前、一人の男性が入ってきた。ぽつりぽつりと言葉を発して、会話をしたその男性客はアイリッシュクリームを飲んで出ていく。閉店時間に店を閉められてよかったと思いながら帰路につく慎介をその最後に来た男性が襲ってきた。
慎介は病院で意識を取り戻す。慎介を襲ってきたのは、一年半前に交通事故で死亡させてしまった岸中美菜絵の兄、岸中玲二だったと聞かされるが、なぜかその事故のことを忘れてしまっているのだった。慎介は交通事故のことを思い出そうとし始める。
そんな慎介の前に一人の謎めいた女性が現れた。何かを持っていそうなその女性が現れるようになって慎介の生活は徐々に今までの穏便な生活から変化をし始めるのだった。
[感想]
過去の交通事故の記憶を追いかけるうちに真相が明らかになっていく作品。
・ひと目見たときから
『茗荷』に入ってきた一人の女性。その様子は他の客とは異質の独特の気配を持っている。ママの千都子の視線を感じて、その女性客が何者なのかを、探りを入れようとする慎介。お酒を出しながら話しかける機会を狙うけれども、上手に話を引き出すことができずにいる。ただ、慎介は彼女は只者ではない、自分にとって特別な感じの存在だと漠然と感じる。
その女性客が帰って行った後も、しばらく考えを巡らせている。やがて、次くることを期待するようになっていく。そして、連絡先を聞くことができて舞い上がっていく。その慎介の感覚、完全に女性の虜になっている感じが、ひしひしと伝わってくる。一体、どんな女性なのか。どんな魅力を、魅惑を、オーラを出している女性なのだろう。そんな興味を誘う。
そんな憧れの女性と、気づけばバーの中で関係を持つところまで一気に話が展開していく。
一見、ここまではこの魔性の女との恋愛物語の行方を描くものなのか、と思わせていながら、徐々に話は、過去の交通事故とのつながりが明らかにされていく。やがて、女性の存在が憧れから、一転恐怖の存在へと変わっていく。
その描写の変化に最後まで、先が読めず緊張感が途切れることのない展開。
・慎介と木内
交通事故の過去を辿るうちに、慎介だけではなくもう一人の男性 木内が実際には殺してしまった方だと明らかにされる。そんな彼のことを調べ得ようとする慎介。木内が銀座のクラブなどで豪遊しているのが見えてくる。しかし、特別な仕事をしているようでもないという存在の木内。見るからに怪しい人物の登場に、謎の女性との接点がどうあるのかに興味がシフトしていく。
やがて慎介の記憶がはっきりすると、木内に再度、真相を聞きにいく。そこから明かされていく過去。想像をはるかに超える世界。慎介も木内もそんな過去を抱えて、よく平気でいられたものだと感心してしまった。
・東京都内のバーにて
『茗荷』や『シリウス』と言ったバーがよく登場する作品。特に、謎の女性(瑠璃子)に酒を求められて、慎介はカクテルを用意する。カクテルの名前とともに、その名前の由来も語る。カクテルを味わう瑠璃子。その一連の流れが、おしゃれにお酒を飲んでいる、お酒を楽しんでいるという感じがあって、憧れる場面。
こうした描写を読んでいると、自分も一人でバーに入って、カクテルを一杯飲んで帰るみたいな生活を一度くらい挑戦してみようかという思いが湧いてくる。ただ、そんなに味わいながら飲めるか、には疑問がある。そういった疑問を抱くだけに、こうした小説の中での、お酒を味わいながら飲む描写というのには、興味を持つ。
・一番印象に残ったのは…
一番というよりは全体的に印象的だったのは、雨村慎介に関わっていた人物がことごとく何かしらの変化が起きているという流れ。その中心にいる雨村。読み終わった後に思ったのは、彼にとって、この結末は決してハッピーエンドではなかったのだろうと思われる。
以下、ネタバレ要素ありのため、ご注意を。
同棲していた成美はある時、失踪。その後、連絡が取れなくなる。
暴行事件にあった時に捜査に当たった小塚警部補。慎介の緊急事態の時に小塚に助けを求めて、助け出された後、小塚との連絡が取れなくなる。
交通事故の時によくしてくれた江島とは、記憶を辿っていくうちに違ったものが見えてくる。
慎介を襲ってきた岸中玲二の顛末。
そして一番の謎だった瑠璃子の結末。彼女の正体が明かされて、そして彼女がとった行動の数々。
これだけ彼の周りで変化おおき人物たちがいたら、雨村慎介自身も決してその後、平穏な気持ちでは過ごせないように感じる。それだけ多くのことが起きた。彼は果たして、エピローグ後の生活を平穏に暮らせたのだろうか。
ある意味では究極の疫病神 雨村慎介と彼と関わった人々の顛末を描いた作品だったのかもしれないと感じる一冊。
読了日:2021年12月24日
皆様の感想もぜひお聞かせください!
それでは、また次回!
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